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寒冷な大地に根付いたやきもの:東北地方の民窯とその特色

やきものづくりに不利な冬の厳しい気候を持つ東北地方ですが、暮らしに不可欠な日用雑器は各地で焼かれてきました。山が深く交通の便が悪かったこの地域の特色は、規模の小さな窯場が小地域ごとに分散していたことです。東北地方の民窯は、福島県の会津本郷や相馬大堀、宮城県の堤など南の窯場から次第に北へ影響を及ぼしていったと考えられます。
以下に、北から順に、各県の主な民窯とその特徴を紹介します。
青森県
悪戸焼(中津軽郡湯口村悪戸)
- 開窯: 文化3年(1806年)に藩窯として開かれ、後に雑器を生産するようになりました。
- 特徴: 徳利、片口、擂鉢、油壺などに、いっちん(化粧土で線描する技法)や鉄絵の文様が施されたものが特色です。
- 廃窯: 大正8年(1919年)に廃窯となりました。
岩手県
岩手県には、久慈焼、長島焼、赤荻焼、古鍛冶焼などがありました。
- 久慈焼(久慈市小久慈町):
- 開窯: 文政5年(1823年)に相馬焼の技術を習得した村民によって開かれました。
- 特徴: 白釉や飴釉を使った皿、甕、鉢、碗、片口などの雑器が多く残されています。
- 長島焼(西磐井郡平泉町長島):
- 特徴: 黒地に白釉を流した甕や壺があり、白岩焼や堤焼の系統ともいわれています。
- 古鍛冶焼(花巻市藤沢町)・赤荻焼(一関市赤荻):
- 特徴: 規模の小さな窯場で、主に鉄釉を使った壺、甕、徳利などを焼きました。
- 山蔭焼:
- 特徴: 天保6年(1835年)に開窯しましたが、わずか2年たらずで廃窯。東北地方では珍しい磁器の窯として注目されます。
秋田県
秋田県には、白岩焼とその分窯である楢岡焼がありました。
- 白岩焼(仙北郡角館町白岩):
- 開窯: 明和8年(1771年)に相馬の陶工の指導によって開かれたと伝えられています。
- 特徴: 白釉や海鼠釉の壺、甕、鉢、片口などで有名でしたが、明治33年(1900年)に廃窯したと伝えられています。
- 楢岡焼(仙北郡南外村):
- 開窯: 白岩焼から分かれ、文久3年(1863年)に開かれました。
- 特徴: 白岩焼と同様に、白釉や海鼠釉の壺、甕、鉢、片口などが有名です。
山形県
山形県には、平清水焼、成島焼、十王焼、新庄焼、大宝寺焼などがありました。
- 成島焼(米沢市広幡町):
- 開窯: 18世紀末に会津本郷焼の影響を受けて始められました。米沢藩の保護のもとに複数の窯がありました。
- 特徴: 湯どうし、土鍋、徳利などに海鼠釉をかけたものが多いです。
- 平清水焼(山形市平清水):
- 開窯: 文化年間に開窯。当初は相馬の技術による陶器でしたが、のちに肥前系の磁器も焼きました。
- 大宝寺焼(鶴岡市内)・新庄焼(新庄市内):
- 開窯: 江戸後期の開窯で同系統の窯です。
- 特徴: 土鍋、湯どうし、切立などで、海鼠釉が美しいとされます。
宮城県
宮城県には、切込焼と堤焼の二つの代表的な窯場がありました。
- 切込焼(加美郡宮崎町):
- 開窯: 江戸中期の開窯で藩窯として始まりました(窯場は仙台市内という説もあります)。
- 特徴: 東日本で初めて焼かれた伊万里風の染付磁器生産で名高く、この地方では少ない磁器窯として知られますが、明治12年(1879年)に廃止されました。
- 堤焼(仙台市堤町):
- 開窯: 元禄7年(1694年)に藩窯としておこったといわれています。のち益子の技法も入りました。
- 特徴: 江戸末期から明治初めにかけて盛んでした。黒釉に糠白釉をたっぷりと流し掛けた甕や壺が代表作で、小物にも美しいものがあります。
福島県
東北の窯業に大きな影響を与えてきた会津本郷焼と相馬大堀焼があるのが福島県です。
- 会津本郷焼(大沼郡本郷町):
- 現状: 現在も東北地方で最も盛んな窯場です。
- 開窯: 文禄2年(1593年)に瓦窯として始まり、正保2年(1645年)に藩窯として陶器を作るようになりました。寛政6年(1794年)には磁器を主に焼くようになりました。
- 特徴: やはり、白・緑・飴釉を掛け流した陶器に特色があります。保存食糧用の鰊鉢や半胴甕が有名です。
- 相馬大堀焼(双葉郡浪江町大堀):
- 系統: 相馬焼には相馬駒焼と相馬大堀焼があり、生活雑器を焼いたのは後者です。益子焼や笠間焼の源流をなした窯です。
- 開窯: 元禄年間に藩の保護のもとに生産が始まり、明治以後も盛んです。
- 特徴: 青土瓶や山水土瓶など各地に先駆けて作られ、馬の鉄絵を描いた徳利なども残っています。
- 館ノ下焼(相馬市中村):
- 開窯: 18世紀の初めごろに始まったと推定されています。
- 特徴: 堤焼と似た技法で、幕末から昭和初期まで種々の型の甕を主として焼きました。
東北民窯の共通した特色
東北地方の窯のやきものには、厳しい自然環境と地域の文化を反映した共通点が見られます。
- 釉薬(うわぐすり): 一般的に鉄釉と石灰釉を重ね掛けした海鼠釉が多く、全体的に色合いは地味なものが中心です。
- 器形(きけい):
- 湯どうし(蒸し器): 寒さの厳しい東北地方ならではの器具である陶製の蒸し器(湯どうし/陶製せいろ)が、どこの窯場でも焼かれているのが大きな特色です。
- 徳利の形: 細長く首が長く、丸い胴という形が定まっており、この形が各地に定着し、かたくなに守られたことは、東北人の気質の表れであると考えられます。これは、他地方との交流が乏しかった自然条件にもよるものであり、徳利の古い形が残っているという点でも注目されます。