玉手箱コラム
2025.04.15
◆骨董コラム◆九谷焼作家 福島武山:赤絵細描の名工
九谷焼作家 福島武山:赤絵細描の名工
福島武山氏は、日本が誇る伝統工芸である九谷焼の中でも特に「赤絵細描」という技法の第一人者として知られる陶芸家です。その繊細な技術と芸術性は国内外で高く評価されており、九谷焼の伝統を現代に受け継ぎながらも、独自の表現を確立した作家です。この記事では、福島武山氏の経歴、作品の特徴、そして代表作品について詳しく紹介します。
経歴
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基本情報:
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氏名:福島武山(ふくしま ぶざん)
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生年月日:1944年9月26日
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出身地:石川県金沢市
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学歴と修業:
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1963年:石川県立工業高校デザイン科を卒業
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特筆すべきは、師を持たず先人の作品を研究して技術を習得した独学の道
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受賞歴と認定:
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1998年(平成10年):第23回全国伝統的工芸品コンクールでグランプリ・内閣総理大臣賞を受賞
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このほか多数の賞を受賞
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2003年(平成15年):石川県指定無形文化財(九谷焼技術保存会会員)に認定
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現在の活動:
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2008年:九谷焼伝統工芸士会会長に就任
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石川県能美市に「福島武山工房」という名の陶芸教室などの施設を運営
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多数の弟子を育成(特に女性が多い)
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作品の特徴
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赤絵細描(あかえさいびょう)について:
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九谷焼の伝統技法の一つで、福島氏はこの技法を再び九谷焼に呼び起こした
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赤の顔料(弁柄/べんがらという鉄分を含む陶絵具)を使用して細密な描写を行う技法
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江戸後期に流行した南画の技法を焼き物に応用したもの
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かつては九谷焼の代名詞となるほど隆盛を極め、明治から昭和初期には200人以上の赤絵職人がいた
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技術的特徴:
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小紋や花鳥、風月、人物などを丁寧かつ細密に描く
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赤1色での描写にもかかわらず、独自の視覚効果を用いて立体感を表現することに成功
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赤絵の具の発色を良くするための様々な工夫(絵の具の調合、酸化作用や窯温度の管理)
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細描用の筆は通常の細書き用よりさらに細く、自らの技法に合わせて特別に作成
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画題の特徴:
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伝統的な題材:唐子(とうし)、竹林の七賢人、龍や鳳凰の文様
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独自の現代的題材:幾何学文様の網手、ピエロを装う小人文、花の上の妖精、日本独特のまつり文
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伝統と革新を融合させた画風が特徴
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赤絵細描の制作工程
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下準備:
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磁器の表面にまずにかわの液を塗り、表面の埃や油分を取り除く
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これにより絵の具の付着を良くする
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下絵:
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呉須(ごす)で線描き(骨描き)をして、主な画題や周りの模様の大体の配置を整える
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赤絵の具による描写:
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線の太さや模様により筆の種類や絵の具の濃さを使い分ける
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この赤の上絵の部分が最も長く手間のかかる工程
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仕上げ:
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赤描きをすべて終えると、サンドペーパーで軽くなでるように凹凸を取り除く
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その後、一度窯に入れる
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表面を滑らかにすることで、この後の金描きの際に筆のすべりを良くする
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福島武山氏は、九谷焼の中でも特に赤絵細描という伝統技法を現代に蘇らせ、さらに発展させた重要な陶芸家です。師を持たず独学で技術を習得し、赤1色という限られた表現手段の中で立体感や繊細さを追求した氏の姿勢は、日本の伝統工芸の精神を体現しています。伝統的な題材と独自の現代的デザインを融合させた作品は、九谷焼の新たな可能性を示すとともに、その芸術性の高さから国内外で高く評価されています。石川県の無形文化財にも認定された福島武山氏の作品は、日本の伝統工芸の粋を感じることのできる貴重な文化遺産といえるでしょう。